この冬、その暖冬の影響を身近に感じたのは、ご門徒さんとの会話からでした。昨年末あたりから、「寒くならないので漬け物を漬け込むタイミングを迷う」とよく聞いたのです。
ありがたいことに、お参りに伺ったときなどに、「ご院さんが好きだから…」と言ってお茶とともにお手製のお漬け物を出していただいたり、おみやげにいただくことがあるのです。どこのお宅でもそれぞれの味があり、おいしいものばかりです。
さて、そんな“漬け物”を題材に詩を書かれた方がいます。ご存じの方も多いでしょうが、現代の妙好人[みょうこうにん]とも言われる榎本栄一さんという方です。まず一遍ご紹介しましょう。
『漬け物野菜』
白菜や蕪の持ち味は
漬け物にするとよくわかる
簡単な言葉で書かれた、なんてことはない詩のように思えます。しかしもう一遍の詩を知るとその味わいはグッと増します。
『漬物』
漬物には
重石がだいじである
私という漬物に
これは
天からいただいた重石
どうぞよい味に漬かってくれ
傍目から見れば、重くて辛そうな重石。しかし、その重石は漬け物を押しつぶそうとしているわけではなく、より味わい深くするためのものなのです。
人生を歩む中で、辛いこと悲しいことはなければいいと思うことはあるでしょう。けれど、一切の苦しみがなかったら、そこには他者に共感が出来ない、鈍感な一人の人間がいるだけでしょう。しかし、苦しみがあったとしてもそこには愚痴・怒り・悲しみがあります。どこまで行っても救われない私がいる。
そんな私のことを救わずにはおれないというのが阿弥陀さまです。阿弥陀さまの願いを聞き、願いの中で生きていく。そうすると逆境も漬け物の重石のように「おかげさまでありました」という仏恩に転じていく、味わい深い人生を送ることができるのでしょう。
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